
湯煙の向こうに、あなたは何を見るだろうか。
かつて銭湯は、生活を支えるインフラであり、人と人が出会い、語らい、つながる場所だった。裸のつきあいが当たり前にあった時代。その記憶は、今、静かに消えようとしている。
ライフスタイルの変化、制度の壁、後継者不足──銭湯は、存続の瀬戸際に立たされている。しかし、それでも火を絶やさぬよう、湯を沸かし続ける人たちがいる。
連載企画「銭湯VS」は、時代に抗いながら銭湯を守り、再生させようとする人々の声を通して、銭湯の「今」と「これから」に迫る。
銭湯は、いったい何と戦っているのか。その戦いの先にある未来とは──。

京都市内に佇む「源湯」。レトロな佇まいは、訪れる人にどこか懐かしさを感じさせる。ここで番台に立つのは、ゆとなみ社の中村勇貴さん。彼は、銭湯の未来を信じ、情熱を燃やす源湯の店長だ。
インタビューを通して見えてきたのは、銭湯への深い愛情、店を預かる者としての苦悩、そして未来への熱い想い。そこから浮かび上がるのは、単なる銭湯の存続を超えた、魂の継承の物語だ。
私たちは、彼の言葉を通して、銭湯の過去、現在、そして未来への想いを馳せる。失われつつある大切なものを、もう一度見つめ直す旅に出よう。

老朽化、後継者不足… 銭湯を襲う構造的不況
「銭湯は、常に時代の変化の最前線に立たされているんです」と中村さんは語る。高齢化による利用者減少、施設の老朽化、そしてライフスタイルの変化… 多くの銭湯が時代の波にのまれ、姿を消しているのは周知の事実だ。
背景にあるのは、構造的な不況。内風呂の普及により、銭湯は日常生活の一部から娯楽へと変化。経営面でも、光熱費の高騰や設備の維持費などが重くのしかかる。
「色々な銭湯を見てきましたが、銭湯経営者の方が『辞めよう』って思うタイミングって、なんかの拍子に普段と違うことが起きた時なのかなと思います。おじいちゃんや、おばあちゃんがやってる銭湯って、80歳でも全然やってる人とかいるんですけど、普段と違ったことが起きて、唐突に『もう辞めどきやな』と思って辞めることが結構多いと思います」と中村さんは指摘する 。長年続けてきた銭湯も、ちょっとしたトラブルが廃業の引き金になるというのだ。
「いつものように銭湯に来たら、たまたま機械の不調でお湯が出なくなってて、『ああ、ここらで潮時やな』みたいな」 。
