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栃木の銭湯が3軒から4軒へ。廃業寸前だった「長寿の湯」、民間継業で7月に再起動

栃木の銭湯がまた一軒生き残る。「長寿の湯」が民間の手で7月に再スタートを切る

銭湯が一軒減るたびに、地域の何かが失われていく——近年、全国各地でくり返されてきた光景だ。栃木県はいま、都道府県別で最も銭湯が少ないクラスの一つで、営業中の街の銭湯は3軒にとどまっている。

その栃木で、廃止が決まっていた入浴施設が「銭湯」として復活する。那須塩原市西那須野エリアにあった市営の温浴施設「長寿の湯」を、株式会社ゆつむぎが引き継ぎ、一般公衆浴場——すなわち、正式な「街の銭湯」として、2026年7月26日にプレオープンする予定だ。

年間10万人の施設が市の手を離れるまで

長寿の湯は1998年の開業以来、約28年にわたって地域の入浴施設として機能してきた。年間利用者は約10万人で、特に高齢者にとっては生活インフラに近い存在だった。

しかし老朽化と維持コストの問題から、2024年度末に市による運営が終了。利用者アンケートや地域の声から存続を求める意見が多く上がる中、ゆつむぎが引き継ぎを決断した。

重要なのは、この再生が「温浴施設」のリニューアルではなく、「公衆浴場法に基づく一般公衆浴場(銭湯)」への業態転換を含む点だ。 許認可が認められれば、栃木県内の街の銭湯は3軒から4軒に増える。一軒の廃止が「3分の1の銭湯が消える」に等しいような規模感の中での増加は、地域の銭湯文化にとって小さくない前進だ。

長寿の湯
株式会社ゆつむぎ 代表取締役 小川 紗理奈氏

「ととのう」から「空になる」へ——銭湯再生のコンセプトが問いかけるもの

サウナブームが加速した2019年以降、「ととのう」というキーワードは温浴施設のマーケティングに広く浸透してきた。新設施設が「ととのう体験」を前面に打ち出す傾向が続く中、長寿の湯が掲げるコンセプトはあえて真を突いている。

「満たされに来るのではなく、空になりに来る場所」。

瓢箪をロゴモチーフに選んだのは、「中を空にすることで初めて器として機能する」という性質と、銭湯の本質が重なると捉えたからだと制作者は語っている。無病息災の縁起物であり、長寿を司る寿老人が携える道具でもある瓢箪と、「長寿の湯」という施設名が自然に結びつく。語呂合わせに頼った装飾ではなく、施設の哲学から逆算してたどり着いたモチーフだという点で、ブランディングとしての密度が高い。

「ととのう」体験を前提とした高温サウナ・水風呂・外気浴の三点セットを売りにする施設が増えた昨今、「空になる」という言葉の選択は、温浴愛好者に限らず幅広い層へのアプローチとして機能するだろう。

長寿の湯

「まちの縁側」として設計された空間

施設の空間コンセプトは「まちの縁側」。 エントランスホールを外に開かれた縁側的空間として再設計し、畳の大広間・バーカウンター・庭を緩やかにつなげることで、「お風呂だけ入って帰る」場所ではなく、滞在・飲食・交流が自然に発生する場を目指している。番台は残し、温泉を活用した浴室環境は既存設備を生かしながら刷新するという。

銭湯の「番台」という象徴を残した点は、特に地域の常連利用者への配慮として読み取れる。継業型の施設再生において、既存の利用者文化を切り捨てずに残す姿勢は、純粋な新設とは異なる難しさと誠実さを同時に示している。

長寿の湯
長寿の湯
長寿の湯
長寿の湯

こんな銭湯好きに特におすすめ

長寿の湯は、「高温・高コントラスト」を求める温浴愛好者よりも、銭湯文化そのものへの関心が強い層や、地域コミュニティと接点を持ちたい人に刺さる施設になりそうだ。

ととのい特化の新設施設とは異なる選択肢として、「温泉付きの昔ながらの銭湯」の現代的な形を体感したい人、あるいは旅の途中に那須・那須塩原を訪れ、地元の日常に触れたい人にとって、価値ある寄り道になるだろう。

編集長

「ととのう」が合言葉になって久しいけど、「空になりに行く」という言い方の方が、正直ずっとしっくりくる日もある。ガチサウナもいいんだけど、番台があって、あがりに瓶牛乳がある——そんな銭湯には派手さはないけど、「そこにあること」の安らぎは絶対的だ。
地元に銭湯が「ある」ということの価値を、失ってから気づかなくていいように、こういう継業の話は丁寧に追っていきたいと思っている。

長寿の湯

  • 所在地:栃木県那須塩原市南郷屋5丁目163
  • 業態:一般公衆浴場(銭湯)
  • プレオープン:2026年7月26日(予定)
  • 営業時間:平日 10:00〜23:00 / 土日 7:00〜23:00
  • 定休日:月曜日
  • 公式Instagram:@choujunoyu
  • 公式X:@choujunoyu

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