
サウナは、フィンランドにとって単なる設備ではなく国民的なアイデンティティの一つだ。ととのう場所であると同時に、人と自然をつなぐ日常の儀式でもある。
その本質を保ちながらも、都市の水辺、湖畔、そして神話の物語にまで表現の幅を広げているのが、今回Visit Finland(フィンランド政府観光局)が紹介した6つの新しいサウナ体験である。
六者六様、フィンランドが描く”新しいサウナ”の輪郭
ヘルシンキ中心部の「Kämp Spa」は、老舗ホテル「Hotel Kämp」が新たに開いた1200平方メートルのウェルビーイング施設だ。
伝統的なフィンランド式サウナ、スチームサウナ、赤外線サウナという三種のサウナに加え、プールと水風呂、独自トリートメントを完備。さらにクライオセラピー(冷却療法)やニューロソニックベッド、着圧セラピーといった、いわゆる「リカバリー」領域の設備まで揃えている点が特徴的だ。
自家製コラーゲンアイスクリームや、伝統的なサウナ桶「löylykiulu」を模したカップで提供されるカクテルなど、遊び心のあるディテールも随所に仕込まれており、単なる大型施設ではなく”フィンランド流ウェルネスの現在地”を体現する場所と言える。


オウルの「Hehku Sauna」は、今年7月にオープンしたばかりの水上サウナだ。オウルマーケット広場のすぐそばという街の中心に位置しながら、サウナで温まった体をそのまま海に入って冷ませるのが最大の特徴。Bastusaunaのコンセプトのもとに創設され、運営は完全セルフサービス制を採る。
オンライン予約をすると個別のアクセスコードが送られてくる仕組みで、スタッフの常駐を前提としない省人化された運営スタイルだ。年中無休のため、夏は海水浴、冬は氷の張った海での寒中水泳と、季節ごとにまったく異なる体験ができる。


レンパーラの「Lempee Sauna & Stay」は、ピュハ湖畔にある、サウナと宿泊が一体化した施設だ。デザインの異なる2棟のサウナを備え、どちらも大きなガラス窓から湖を一望できる設計になっている。
「Kajo」は現代的なスカンジナビアンデザインを基調とし、明るくミニマルな空間で優しいロウリュを楽しめる一方、「Korpi」は手斧で削り出した丸太や温かみのある照明を用い、伝統的なフィンランドサウナの様式を色濃く残す。3段のベンチで温度帯を選べる点も含め、対照的な2棟を行き来できるのがこの施設の面白さだ。
ゲストは温水・冷水プールや湖水浴に加え、自然に囲まれた2名用コテージ5棟にも宿泊でき、タンペレ中心部から30分弱という立地もあって、”日常から少し離れる”体験を設計しやすい場所になっている。

パイエンネ湖畔の「Sisusauna」は、古代の岩絵や地元の伝承、フィンランド神話から着想を得たサウナだ。伝統的な木材と現代の職人技を組み合わせ、古代的な雰囲気とモダンデザインが交差する空間を作り出している。3段ベンチで強度の異なるロウリュを選べるほか、目の前に広がる湖の眺めがそのまま体験の核になっている点が特徴的だ。
Sisusaunaは大人専用のアウトドアスパ「AISTI Sauna Spa」に新しく加わった施設で、このスパには他に5つのサウナ、温水インフィニティプール、屋外ジャグジーがあり、パイエンネ湖への直接アクセスも可能。中心的存在となっているのは伝統的なスモークサウナで、2026年にフィンランドのベストサウナに選出されている。


ヘルシンキ・ソルナイネンの「Löylykontti」は、有名な観光地型サウナとは一線を画す、”地元の日常”を体験させる施設だ。
スヴィラハティウォーターフロントに、バルト海を一望できる木張りのコンテナサウナが2棟設置されている。他の利用者と共有するセッションのほか、貸切利用も可能で、夏はそのまま海へ、冬は整備された氷の穴での寒中水泳が楽しめる。
受付もメンバーシップも決まった作法もない、意図的にシンプルな運営が特徴で、近隣のスヴィラハティの文化施設やカッリオ地区の飲食店とも近い。現在はエイラ、ヤトカサーリ、タパニンヴァイニオ、パレッティランピの4拠点で新設が計画されており、いずれも冬の寒中水泳を前提に設計される予定だ。


ヨエンスー郊外の「Lykynlampi Sauna World」は、サウナとカレリア地方の伝統、自然、アウトドアアクティビティを組み合わせた複合施設だ。現在「Kelo」と「Valo」という2つの体験型サウナを運営し、夏は湖水浴、冬は寒中水泳や冷水プールを楽しめる。
周辺のレクリエーションエリアにはフィンランド最大級の景観ブランコがあるほか、「Lykyfest」などのイベントも開催され、サウナ以外の体験も充実している。またグラベルサイクリングの拠点としても知られ、自転車レンタルや、全長約65kmの「Pyhäselkä Loop」を含む「Saimaa by Cycle」ネットワークのルートが利用できる。
3つ目となる体験型サウナは建設中で、2027年のオープンが予定されている。


なぜこの6施設が特別なのか
この6施設に共通するのは、「サウナ+α」の掛け算による体験の再定義だ。
日本でもテントサウナやサウナ付き宿泊施設の増加によって「サウナは移動できる」「サウナは宿泊体験の一部になる」という認識が広がりつつあるが、フィンランドの動きはその一歩先を行く。単に設備を足すのではなく、Hehkuのように都市機能と一体化させたり、Sisusaunaのように土地の神話という物語性を組み込んだりと、サウナを核にしながら「体験の意味」そのものを設計し直している点が興味深い。
特にLöylykontjaが掲げる「受付もメンバーシップもない」という簡素さは、施設の充実competition化が進む日本のサウナシーンとは逆方向のアプローチであり、比較対象として示唆に富む。
フィンランドのサウナはどんなサウナーにおすすめか
海や湖にそのまま飛び込みたい”外気浴より天然水風呂”派にはHehkuやLempeeが向く。静けさや物語性を求める上級者にはSisusaunaのスモークサウナ、初めてフィンランドサウナ文化に触れるならKämp Spaのようにリカバリー設備まで揃った複合施設が入りやすい。
予約なしでふらっと立ち寄りたいソロサウナーにはLöylykontjaの気取らなさが合うだろう。

Hehkuの「サウナで温まってそのまま海へ」という導線に一番心が動いちゃう。フィンランドといえばこれ、という感じ。ロウリュの余韻を抱えたまま水に飛び込む瞬間のあの温度差は、施設がどれだけ豪華でも代替できない快感だと思う。設備マニアならKämp Spaのクライオセラピー、静寂派ならSisusaunaのスモークサウナが刺さるはず。フィンランドは相変わらず”やりすぎない贅沢”がうまい。
Kämp Spa
| 施設名 | Kämp Spa |
| 所在地(エリア) | ヘルシンキ中心部 |
| サウナ室数・熱源種類 | 伝統的フィンランド式サウナ、スチームサウナ、赤外線サウナ |
| 主な設備 | プール、水風呂、クライオセラピー、ニューロソニックベッド、着圧セラピー |
| 施設面積 | 1200平方メートル |
Hehku Sauna
| 施設名 | Hehku Sauna |
| 所在地(エリア) | オウル(オウルマーケット広場付近) |
| 開業日 | 2026年7月 |
| 営業形態 | セルフサービス制、オンライン予約制、年中無休 |
| 主な設備 | 海での遊泳、冬季の寒中水泳 |
| 運営 | Bastusaunaのコンセプトにより創設 |
Lempee Sauna & Stay
| 施設名 | Lempee Sauna & Stay |
| 所在地(エリア) | レンパーラ(タンペレ中心部から30分弱) |
| サウナ室数 | 2棟(Kajo/Korpi) |
| 主な設備 | 温水・冷水プール、湖での水泳 |
| 宿泊施設 | 2名用コテージ5棟 |
| 眺望 | ピュハ湖 |
Sisusauna
| 施設名 | Sisusauna |
| 所在地(エリア) | パイエンネ湖畔 |
| サウナ室数 | 3段ベンチ構成のロウリュサウナ |
| 主な設備 | 温水インフィニティプール、屋外ジャグジー、湖への直接アクセス |
| 特記事項 | 併設するAISTI Sauna Spa内のスモークサウナが2026年フィンランドベストサウナに選出 |
| 運営 | AISTI Sauna Spa(大人専用) |
Löylykontti
| 施設名 | Löylykontti |
| 所在地(エリア) | ヘルシンキ・ソルナイネン(スヴィラハティウォーターフロント) |
| サウナ室数 | 木張りコンテナサウナ2棟 |
| 営業形態 | 受付・メンバーシップなし、貸切利用可 |
| 主な設備 | 夏は海水浴、冬は氷の穴での寒中水泳 |
| 拡大計画 | エイラ、ヤトカサーリ、タパニンヴァイニオ、パレッティランピに新拠点を計画中 |
Lykynlampi Sauna World
| 施設名 | Lykynlampi Sauna World |
| 所在地(エリア) | ヨエンスー郊外 |
| サウナ室数 | 体験型サウナ2棟(Kelo/Valo)、3棟目建設中 |
| 開業日(3棟目) | 2027年予定 |
| 主な設備 | 湖水浴、冬季寒中水泳、景観ブランコ、サイクリングルート(Pyhäselkä Loop 約65km) |