
湯煙の向こうに、あなたは何を見るだろうか。
かつて銭湯は、生活を支えるインフラであり、人と人が出会い、語らい、つながる場所だった。裸のつきあいが当たり前にあった時代。その記憶は、今、静かに消えようとしている。
ライフスタイルの変化、制度の壁、後継者不足──銭湯は、存続の瀬戸際に立たされている。しかし、それでも火を絶やさぬよう、湯を沸かし続ける人たちがいる。
連載企画「銭湯VS」は、時代に抗いながら銭湯を守り、再生させようとする人々の声を通して、銭湯の「今」と「これから」に迫る。
銭湯は、いったい何と戦っているのか。その戦いの先にある未来とは──。

かつて子どもたちの笑い声が彩り、買い物袋を提げた主婦が行き交っていた商店街は、静かな住宅街となった。東京都・東大和市の「神明湯」は、そんな通りの一角に、今日も変わらぬ湯気を上げ続けている。
昭和43年創業。父・栗原和治さんが二代目として長年暖簾を守り、現在は三代目を継ぐ息子・健輔さんがその歩みを受け継ごうとしている。だが、この親子の姿は単なる「家業の継承」の話にとどまらない。老朽化、顧客の高齢化、街の衰退。変わりゆく時代に抗いながらも、銭湯という“町の拠点”から、あらためて地域と人のつながりを築こうとするその姿は、現代における銭湯の新たな価値を映し出している。
