「次の担い手に、背中を見せたい」
林さんは今、次の挑戦も見据えている。「できたらね、もう1店舗、2店舗…見ていきたいなって。違う場所でもう一回挑戦したい気持ちはあるんですよ。ずっと同じ場所におるのは性に合わへんし、新しい店舗をイチからやって商売として成立することを証明できたらいいかなと。自分の様な普通の個人銭湯経営者が新しく始めることで、他の人のロールモデルになれると思う」
また、学生との関わりには、ある種の願いも込められている。「掃除を通して、銭湯の裏側をちゃんと知ってもらいたい。その中から、将来『銭湯をやりたい』って思う子が出てきたら、嬉しいですよね」林さんが語る“次の一歩”は、派手な挑戦ではない。しかし、毎日の積み重ねの中から見えてきた、「現実的な未来」だ。


辞める日が来ても、特別なことはしない
最後に、辞め時について尋ねた。「たぶん、突然来ると思います。配管が壊れたとか、自分が倒れたとか。そんなもんです」ただし、それまでは日々を淡々と続けていくという。「特別なことはせえへん。ただ、今日も湯を張って、掃除して、普通にやるだけ。それが一番やと思ってます」そう言うと、林さんは大きく笑った。

「ふつうを続ける力」が、地域の灯を守っている
銭湯という営みは、非効率で、不確実で、決して派手ではない。だが、その“ふつう”を静かに守り続けている人がいる。
林さんの言葉には、銭湯を特別視する熱狂はない。しかし、毎日湯を沸かし、学生に掃除を教え、老朽化した設備と向き合う中で生まれる“実直な情熱”があった。
次の世代が銭湯に関心を持つとき、林さんのような存在が、その背中をそっと押すだろう。
山城温泉の湯気の向こうに、銭湯の未来は、静かに立ち上がっている。
山城温泉
所在地:〒602-8373 京都府京都市上京区下横町218