積雪地帯ではいちだんと雪が深くなるこの季節、多くのサウナーにとっては文字通り「雪を肌で感じる」季節になってきた。北国では雪を見ながら外気浴を行ったり、多くのアウトドアサウナでは水風呂の代わりに「雪へダイブ」することもできる。サウナの本場、フィンランドがそうであったように、寒い地域とサウナというのはそもそもの相性がいいのだ。
そんな寒く雪の多い地域、山形県の中央部に位置する人口5,000人の小さな町「西川町」を、みなさんはご存知だろうか？人が暮らす地域として日本一の積雪量を誇る町であり、街の総面積のほとんどは針葉樹林の山々に占められる。その景色は、まるで北欧そのものだ。
その西川町が、国内のサウナーの間でも密かに注目を集めている。この小さな町は、サウナに本気な「サウナの町」なのだ。町が持つ様々な課題を解決すべく、自治体をはじめ、多くの企業がサウナに本気で取り組んでいる、全国でも珍しい町だ。最高のロケーションと、最高のサウナ施設が揃うこの町で、いったい今、何が起こっているのか？今回は西川町役場の鈴木さん、西川町で熱波師を務める「山岳熱風アダチ」さんにお話を伺った。
サウナは人口減少を食い止め、人口増加に繋げる起爆剤
――本日はよろしくお願いします。西川町はサウナ好きの間でも話題になる町ですので、お話を伺うのを楽しみにしていました。
鈴木 私たちもサウナの話ができるのを楽しみにしていました。西川町は町全体でサウナによる町おこし、町の課題解決を図っています。この取り組みを知っていただければ西川町の魅力がもっと伝わるのではないかと思います。よろしくお願いします。
アダチ よろしくお願いします。
――西川町、自然の豊かな素敵な町ですよね。この西川町の自然とサウナ、とても相性がいいのだと思いますが、なぜまたサウナに力を入れるようになったのでしょうか？
鈴木 おっしゃるとおり、西川町は山形県のほぼ中央に位置し、出羽三山のひとつ「月山」と、清流「寒河江川」に囲まれた、面積の95%が山林という自然豊かな町です。そういった豊かな自然に囲まれながらも人口は5000人を切る町で、人口減少や町立病院など存続は西川町としての喫緊の課題でした。なんとかこの豊かな自然を活かしながら、町が持つ課題を解決できないかと頭を悩ませていたんです。町の魅力を最大化し、税収以外の収入も増やすにはどうすればいいか。西川町を持続可能な活力あふれる町へと発展させていくにはどうすればいいか。色々なことに挑戦していくことが私たちには必要だったのです。
そういったことを考える中で、2022年から西川町の町長を務める菅野大志町長は、デジタル住民票NFT（非代替性トークン）の発行や人工知能（AI）を活用した謎解きゲームの開催、そしてサウナを活用した交流人口の拡大を目指す方針を打ち立てました。菅野町長自身も大のサウナーで、サウナと自然の親和性を実体験として知っていたことも大きいですね。
2024年度には、西川町役場内に町が自ら稼ぐことを目指す「かせぐ課」を設置し、その課内に「サウナ推進係」「NFTかせぐ係」を立ち上げます。現在も準備室として稼働していまして、毎日これらの様々なことを議論しているかたちです。
――本気でサウナに取り組んでいく強い意志を感じます！今現在、町にはいくつかサウナがあるんですよね？
鈴木 西川町には常設のサウナとしては、西川町総合開発株式会社で所有する水沢温泉館、月山志津温泉 変若水の湯つたやのサウナ「阿頼耶（あらや）」があります。
その他、一般社団法人月山朝日観光協会が所有し運営する移動式トレーラーサウナ「サウナ月山 PRIVATE」、西川町の大井沢にある「SAUNA VILLAGE OISAWA」があります。
――水沢温泉館はテレビ番組でも取り上げられるくらい注目のサウナがありますね。私も番組を拝見して、めちゃくちゃ入ってみたいサウナのひとつです。
鈴木 ありがとうございます。水沢温泉館のサウナは2023年4月にリニューアルを行いまして、多くの利用者の方々からも好評です。天井が近いので、蒸気の回りが早く、対流がいいのが人気の秘訣ですね。セルフロウリュには西川町の特産品でもある「啓翁桜」を利用したアロマを現在開発中です。桜の香りがサウナ室いっぱいに広がるアロマになりますので、これが完成したら水沢温泉館の魅力もさらに増えるかと思っています。
また、月山の雪解け水を使った超軟水の水風呂も人気ですね。極端なくらい超軟水なのでお肌にトラブルを抱えている方や、お肌の弱い赤ちゃんでも利用できるくらいです。冬の時期は温度もシングル（9℃以下）になりますので、サウナで火照った体をキンキンに冷やしてくれます。菅野町長も大好きな水風呂ですね。
――外気浴も自然に囲まれた場所で魅力的です。
鈴木 そうですね。月山から吹き下ろす風は本当に気持ちよく、四季折々の風景を楽しむことができます。西川町は豪雪地帯ということもあり、冬には他ではなかなか体験できない雪景色をご覧いただきながら「ととのう」ことができるかと思います。この外気浴スペースも人気がありますね。
――豪雪地帯の雪景色は確かになかなか味わえません。圧巻の景色は想像を超えるでしょうね。また、サウナ飯、いわゆる「サ飯」にも力を入れてらっしゃるとか。
鈴木 水沢温泉館で食べられるオリジナルカレーには、「TOKYOカレー百名店」に3度選出されている東京都高円寺の有名店「カリーショップくじら」がプロデュースした「なんばこポークビンダルー」をご提供しています。辛くて酸っぱいクセになるカレーで、サウナ後の空腹を満たしてくれる人気メニューです。サウナ後にカレーで「追い汗」をかくのも気持ちいいですよ。
