
長崎県・五島列島の南端、玉之浦町で今春ひっそりと幕を下ろした公衆浴場が、露天風呂・サウナ・岩盤浴を備えてよみがえる。
2027年夏に「荒川温泉」として再出発し、その翌年2028年夏には同敷地に宿坊型デザイナーズホテル「HOTEL JIHONGAI(ジホンガイ)」が加わる——そんな二段階の再生計画が正式に発表された。まず地域の公衆浴場を取り戻すことが先で、ホテルはその次だ。
地域の銭湯が消えそうになった話からはじまる
この施設の来歴は少し複雑だ。もともとは民間の旅館だったものを、五島市社会福祉協議会が引き継いで2011年に「地域福祉センター荒川温泉」として開所した。以来十数年、地元住民にとって日常の入浴場として機能してきたが、建物の老朽化が進み、今春ついに運営を終了することが決まった。

地域の公衆浴場の閉鎖は、都市部では見えにくい問題だが、島嶼部においては住民の生活インフラに直結する。銭湯・共同浴場の廃業が加速する離島や中山間地域では、「近くに風呂がない」という状況が現実として存在する。 荒川温泉の閉鎖もその文脈の中にあった。
この状況を動かしたのが、五島市出身で株式会社MTG代表の松下剛氏だ。地域住民から存続を求める声が上がっていることを知り、改装費用を全額負担するかたちで支援を決断した。地元で宿泊施設や飲食店を手がける桑田隆介氏と「荒川温泉株式会社」を設立し、松下氏が代表取締役会長、桑田氏が代表取締役社長に就任している。

「荒川温泉」にはサウナ・露天風呂・岩盤浴が揃う。公衆浴場としての再設計
リニューアル後の荒川温泉で注目したいのは、温浴設備の大幅な拡充だ。五島産玄武岩を使用した露天風呂、サウナ、岩盤浴が整備される計画で、従来の「地域の入浴施設」から「サウナを含む本格的な温浴施設」へと進化する。


玄武岩という素材の選択は単なるデザイン上の判断ではない。玄武岩は火山性の地質を持つ島特有の石材であり、五島の地形そのものを空間に持ち込む意味を持つ。近年、地産素材を積極的に取り込んだ温浴設備やサウナ設計——秋田杉の浴室、津軽石を使った水風呂など——が各地で見られるが、五島の玄武岩を主素材に据えた温浴はこれまでほとんど例がない。


設計を担当するのは建築家・長坂常氏率いるスキーマ建築計画だ。東京・清澄白河のBlue Bottle Coffeeや、銭湯リノベーションで知られる「黄金湯」「狛江湯」を手がけてきた長坂氏がこのプロジェクトに入るという事実は、仕上がりへの期待値を否応なく引き上げる。黄金湯のリノベーションがサウナ好きの間で「行く理由のある銭湯」として語られ続けていることを思えば、荒川温泉がどういう方向に向かうのか、その答えは設計者の過去作を見れば想像がつく。
工事期間中は一時休業となるが、リニューアル後も温浴のみの利用を従来どおり受け付ける方針。地域住民の日常的な入浴場としての機能を残す判断は、この施設が観光施設一本に振り切らないことを意味する。
その後、2028年夏に宿坊型ホテルが加わる
公衆浴場としての荒川温泉が2027年夏に動き出した後、2028年夏に同敷地内で「HOTEL JIHONGAI(ジホンガイ)」が全面開業する計画だ。
施設名は弘法大師・空海が遣唐使として日本を離れる際に残した言葉「辞本涯(じほんがい)」——「日本最果ての地を去る」——に由来する。 五島列島は遣唐使船の最後の寄港地であり、今年は空海生誕1250周年にあたる。

ロビーを吹き抜けにした開放的な設計で、客室は全20室規模。VIPルームには専用バルコニーと緑に囲まれた浴室が備わり、ツイン・シングル・ドミトリーと幅広い構成。カフェ、研修室、ジム、東シナ海に沈む夕日を望むテラスも設けられ、法人研修や長期滞在のニーズも見込んでいる。


どんなサウナーに特にお勧めか
都市のサウナとは対極の体験を探しているサウナーに向いている。玄武岩の温浴設備、開放的な露天風呂での外気浴、東シナ海を臨む夕日テラス——どれも「施設スペックを楽しむ」というより「場所と時間に溶け込む」タイプの体験だ。旅ごとサウナを楽しむソロサウナーや、歴史・文化文脈を旅の軸に据える中上級者に特に刺さる施設になりそうだ。
公衆浴場として存続する点は、地元との距離感を大切にしたい旅人にとっても加点要素になるだろう。

「黄金湯」が公衆浴場のサウナ体験を更新したように、荒川温泉もそういう施設になれる素地がある。設計者が同じなのだから当然かもしれないが、今度の舞台が離島であることが話を変える。
玄武岩のサウナがどんな熱気を持つのか、露天の外気浴で東シナ海の風がどう流れるのか、スペックより「場所」で選ぶタイプのサウナーには2027年夏が一つの目標になりそうだ。
荒川温泉(公衆浴場)/HOTEL JIHONGAI(ジホンガイ)
所在地:長崎県五島市玉之浦町(五島列島・福江島)
公衆浴場「荒川温泉」開業予定:2027年夏
ホテル全面開業予定:2028年夏
温浴設備:露天風呂・サウナ・岩盤浴(五島産玄武岩使用)
客室:全20室規模(VIPルーム、ツイン、シングル、ドミトリー)
その他施設:カフェ、研修室、ジム、夕日テラス
着工:2026年秋(温浴施設)
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