序章:サウナ室の静寂を利用する「笑いの衝動」
サウナ室という空間は、極めて神聖である。そこには、己の肉体と精神の対話があるのみ。水風呂から外気浴へと続く一連の儀式は、現代社会で摩耗した我々の魂を「ととのい」という名の涅槃へと導く。
そして、その神聖さを担保しているのが、「静寂」だ。
サウナーの間で共有される暗黙のルールとして、「黙浴」はもはや常識。大声での会話、世間話、仕事の話など論外。耳に入るのは、ストーブの焼けるチリチリとした音、皮膚の上を流れる汗の雫の音、そして、心臓の鼓動だけ。

ところが、この「神聖なる静寂」を、あえて真逆のベクトルからハックしようとする試みが、今回のテーマである。そう、それが…
「静かに笑う」。
これを聞いて、「なんでやねん」と思う人もいるだろう。そう、我々人間にとって「笑い」とは、本質的に「音」を伴う行為だ。腹筋を震わせ、喉を鳴らし、全身を使って「喜び」や「可笑しさ」を爆発させる。
それを「無言」でやる。
これは、感情のアウトプットの形を根本から変える、一種の「修行」なのだ。だが、この奇妙な修行が、メンタルヘルスに劇的な効果をもたらし、結果的に我々の寿命を密かに、そして大胆に伸ばしている可能性がある。
